それにしても、昨日の鹿児島アリーナは凄まじかったな…。
前日に眼前に広がった光景を思い出していた朝、不意に長渕から電話があった。「稲村、ピーターたちとウォーキングに行くぞ!」
長渕、デニス・マーティン、ピーター・ソーン、ジョン・バトン、ローレン・ゴールドたちと合流、城山の急勾配の坂を下り、明治維新の闘いの軌跡が残る史跡群をたどっていった。厳しい夏の日差しが容赦なく照り付け、Tシャツの背中は汗だくだ。しかし、みんな笑顔に満ちている。そう、ステージで見せるそれとまったく同じに!食い入るように石碑を見つめたり、おどけたポーズで一緒に写真を撮ったりして、本番前の午前を楽しんでいる様子だ。
ふと、誰かが訊いた。「ツヨシ、ここに何年いたんだい?」と。長渕は答える。「ハイスクールまでだ。当時は皆と同じぐらい、髪も長かったんだぜ(笑)」「リアリー?」・・・爆笑の渦が沸き起こる。その場はもはやファミリーのようだ。思えば、彼らがリハーサルのために来日してからすでに一か月以上が経つ。カナダ出身のピーター、アラスカ出身のジョン、そしてサンフランシスコ出身のローレンも自身のふるさと、そして家族が待つ地に想いを馳せているに違いない。そして今日、長渕のふるさとを共に歩き、空気を吸うことで、さらなる結束が生まれたに違いない。「ツヨシのホームタウンで最高のライブをやるんだ!」と。その後長渕は、照国神社で「二礼二拍一礼」の所作を彼らに教えてお参りをし、「しあわせになれるから」と、お守りをプレゼントした。途中、偶然出くわしたファンが「ピーター!」と声をかけてきた。異国の地で名を呼ばれたピーターは、照れくさそうに、しかしキラキラした笑顔を見せた。
次に彼らは、昭和初期の佇まいを残す中央公民館を訪れた。タイムトリップしたかのような空間で思い起こすかのように呟く。「この小さな会館から俺は始めたんだ。ここをいっぱいにしたら、次は隣の宝山ホール。そして鹿児島アリーナだ」海の向こうにそびえる桜島を指さして、ジョンは「本当にあそこでやったのかい?」と肩をすくめる。長渕はそうして、階段をひとつひとつ昇ってきたのだ。自らの努力と鍛錬で切り開いてきた道。その道中で、素晴らしい人間にこうして出会ったのだ。時間は必要としたかもしれないが、タイミング、メンバー、スタッフ、すべてのパズルが奇跡的に組み合わされたからこそ、最高の瞬間がステージ上に産み出されるのだ。
この日の夜は、ハナからスロットル全開だ!メンバーも輪をかけるようにヒートアップしていく。ちょうど10年前の桜島のオープニングさながら、いや、それをも上回るテンション感でライブは続いていく。長渕は10年歳を重ねたが、己に課し続けてきた肉体練磨によりむしろパワーアップしている!いったいこの男は、どこまで燃え続けるんだろうか?「あれから10年経った。あの時の情熱はまだあるか?次は10万人集めるから、みんな来いよ!今、場所探してるから待っててくれ!」そう言い放った長渕の情熱は、変わらないどころか、さらにメラメラと、桜島のように燃えている。本当に、恐ろしい男だ。
ユニバーサル ミュージック 稲村新山