バンドメンバーがステージに登場すると、これまでにないくらい一際大きな歓声が上がった。
やっぱりだ! やっぱりきた!
横浜から鹿児島と巡ってきたこのツアー、メディアを巻き込んですでに方々で話題になっている。とりわけ、日本とアメリカのミュージシャンの混成部隊がここまでひとつになっている姿が観る者をトリコにしている。
〝とにかくカッコいい!〟
〝こんなロックンロール・バンド、どこにもいない!〟
長渕剛が登場し、その時点でもうどこよりも分厚い歓声が会場を何重にも取り囲んでいる。今夜は、スゲエや――。
それにしても名古屋、アツイ!
ひとつひとつの歓声がデッカイ塊となって降り注いでくる。
この歓声は、徹夜でこのステージを仕込んだスタッフたちの心を揺り動かした。照明、音響、舞台、特効、すべてのセクションに従事するスタッフの目つきが鋭さを増した。
この名古屋初日の仕込みは、すべてを10時間でやらなければならなかった。深夜12時過ぎから怒濤のごとくスタッフがなだれ込み始まった現場は、まさに戦場。もうひとつのライブかと思えるほどの熱だった。その状況を、とりわけ長渕本人に伝えたわけではない。しかし――スタッフたちにうれしいサプライズが待っていた! ノンストップの仕込みを終えた昼頃、どこからか香ばしいにおいが。空腹を抱えたスタッフがにおいにつられて会場の裏手に出ると、そこには――「長渕食堂」の暖簾が! うなぎの蒲焼き! 三河一色の国産うなぎ! 限定100食! あっという間になくなったことは言うまでもない。
長渕食堂は今に始まったことではない。
しかし絶妙のタイミングでその暖簾が出て来るのは、長渕のスタッフへの眼差しのたしかさだ。
総勢100人を超えるバンドとスタッフをひとつにまとめあげるのは、並大抵のことではない。長渕はバラバラだった細い線を、一本の太く大きな流れに束ねていく。ツアーとは、その錬磨なのだ。
静謐な曲のギターソロをピーターがやさしいフレーズで弾き終わったあと、音を止めて、長渕が言う一言に、その行為に、すべてが凝縮されているような気がした。
「ピーターに拍手してくれよ」
まるで自分のことのようにピーターと彼のプレイをオーディエンスに自慢している。子どもっぽい笑顔で。どうだい、うちのギタリスト、最高だろ?って。この言い方に、長渕の仲間を想う強い気持ちと今回のツアーへの自信が滲み出ていると感じた。
そして、オーディエンスに対しても、バンドやスタッフに注ぐのと同じだけの愛情で向かっているのがわかる。
今回どの会場も、バックスタンドを開放している。ライブ中、頻繁に彼らとコンタクトをとっている長渕の姿を目にする。ドラム台の上にのぼり、彼らに向かって拳をあげ、彼らの方を向いて唄う。その姿がどのタイミングからかバンドメンバーにも伝染し、ジョンがピーターがichiroがバックスタンドのオーディエンスを意識するようになった。
〝今夜のヒーローは俺たち全員だぜ!〟
長渕はそんなメッセージを放っている。
だからこそこのバンドはクールでカッコいいのだ。
だからこそ、世界のどこを探してもこんなバンドはいないのだ。
まだまだ転がりつづける長渕剛のNew Band、行き先はもっともっともっともっと遠くだ!
さあ、まだまだ転がりつづけようぜ!