2014年9月12日金曜日

9.11 大阪市中央体育館 LIVE REPORT


9月になって走り抜けた武道館、福岡マリンメッセを、圧倒的に凌駕するであろう大阪のエネルギーは開演、30分前からツヨシコールが鳴り響く怒濤のスタートとなった。
会場割れんばかりに主役を待ちわびている。
この日、満員の10,000人で膨れ上がった大阪市中央体育館は今年5月のフルコンで登壇したものの長渕の長きライヴツアーの中でも、初めての場所である。
ーー大阪ーー
かつて、長渕剛と言う新人がデビューして間もない頃、前座で30分と言う時間が与えられた。髪の長い 若き青年はひたすら唄った。
誰も名前を知らない、誰も歌を知らない、そんな頃の事。緊張の余り、弦が切れても ひたすら歌う長渕に初めてアンコールの声が騰がった…それが大阪フェスティバルホール、長渕22歳の時。
その時から大阪は心の中で大切な…大切な場所だと、長渕は言う。
場内アナウンスが流れ、オーディエンスのボルテージが最高潮に達した時、バンドメンバーに続き長渕は、さっそうと登場した!
墨黒のジャケットに深紅のパンツ、首には花柄の黒いスカーフを巻き、ステージ横の階段を一気に駆け上がったかと思うと高々と手を挙げ、サングラスから微笑みが、こぼれる! 怒濤のような歓声がスタジアムに轟く!
と、同時に三年ぶりに復帰した矢野一成のバスドラが腹にズシンと、そして、うなるような音を叩き出す!
今ツアー、『オールタイムベスト』のオープニングに選ばれた「泣いてチンピラ」
ステージ上の長渕は、とびきり軽快なステップを踏む。
ダンディズム漂うジャケットに隠された身体は一曲目よりムチのように、しなる。
 1988年、1月、後に伝説となるライヴツアー「STAY DREAM 」
黒い皮のコートに身を包み、大阪城ホール中央に設置された円形ステージに30歳の長渕剛は気負う事 無くたった一人、ギターを携えて登場した。それは全くの自然体で。
自分を取り巻く人間関係に傷付き、音楽の方向性に疑問を感じ、
自らの原点に立ち返って挑んだ ライヴツアー!
 高らかに、そして孤高の、叫びとして
みんなの前で歌い上げた「STAY DREAM」
その時をこの目で目撃している一人として…
まさにそれから27年の時を越え、今、ロスから3人の強力なミュージシャンを迎え、今夜、この同じ大阪の地に凛と立つ58歳の長渕剛を見て、歴史の重さ、そしてこの上ない本物の唄の裏側にある繊細なまでの優しさと覚悟を痛いほど感じる。
それは命を賭するから。
ずっと命を懸けてきたから。
楽屋に一冊のノートがある。
長渕が98年、トレーニング開始以来毎日、記している日誌だ。
日々のトレーニングメニューはもちろん、摂った食事の内容も微細に書き込まれる。
 長渕の「食」に対するこだわりや知識は身体を作る上で必要不可欠と、なった。
その日の行動、思い、反省、怒り!
大学ノートに細かな字でびっしりと、書き記されている。
そしてそこに必ず書かれていた言葉…
「てめえら、見てろよ!」
長渕は16年の歳月を掛け、肉体を強靭な精神力で変貌させた。
その間、付けた日誌は40冊強にものぼる。
何がそこまで彼を追い詰め、何がそこまで駆り立てたのだろうか。
「意地だよ!!負けん気かな!俺は『悔しさ』が染み付いて生きてきたからね! 」
彼は  さらりとそう言い…放つ。
しかしその思いはさらり等と言う言葉では表現出来ないほどの覚悟と執念に満ちたものなのだ。
その覚悟と執念こそが、デビューからの37年!
 いや、初めてギターを手にした中学三年の時から43年!
それは色褪せることなく、さらに年を重ねるごとに輝きを増し、長渕を鼓舞させ、支え続けているのだと思う。
「明日をくだせえ」
飽食と平和のド真ん中にどっぷり居座る日本の横っ腹に世界を揺るがす震災が起きた。
ステージ後方に設置された自身初となる大型LEDから日本が抱える新聞記事の闇が写し出される。
天井から5枚の短冊のようなLEDが降下し  強烈な言霊が  そこに叩きつけられる。
″魂の爆弾″が投下される。
長渕がジャケットを脱ぐ!
躍動する肉体!飛び散る汗!唸る喉!
この動きを見るに付け長渕剛は一体何歳なのだろうと錯覚を起こす。
キーボードのローレンとはピアノとブルースハープの攻防!
その交互のセッションは、さながらアスリートの闘いのようだ!
いくら強靭な肉体、精神力と言えど、肉体への負荷は やはり強烈であろう。
『勝ち続ける』と決めなければきつすぎる。でも『勝っている、気がしないんだ!』と長渕は言う…
それこそが日々の進化を遂げる長渕剛の強さなのかも知れない。
「順子」
ichiro氏と、ピーターのスタジアム中に響くツインリードギターの恐ろしく美しい共演! 競演! 拍手が沸き起こる!
そして間髪入れず、ジョンのベースがボン!ボン!ボン!と、的確に!そして力強く! 重低音で心を揺さぶる!
新しい姿でよみがえった「順子」。度肝を抜く。
たった一人の弾き語りが続く。
「なんか涙が出そうでヤバかった!
こんな愛に満ち満ちたステージは見たことないよ。嬉しいよ。」とポツリと語る。
「青春」からのアップテンポ4作連打は、この会場の熱気が人の心を溶かし強烈な連帯を生む。
地響きが起こる。気がつくと無数のシャボン玉が皆の夢を乗せて会場に揺れた。
アンコール。
真っ赤に燃え上がる炎が写し出され「桜島」が燃えたぎる!
長渕もオーディエンスも両手を左右に揺さぶりそれは炎の如く…マグマの如く…あの日のように″1つ″になる!!
ライヴは生き物だ。生きているという感覚を何度も味わった。会場が1つになり大きくうねる。10,000人が1つになり、うねりの波が岩にぶち当たる!
75,000人を動員した世紀の祭典「桜島オールナイトコンサート」から丸10年。あの地に立ち、桜島の後方より昇り立つ朝日を見た者は何を感じ、何に奮い立ち、何を目標に掲げ、あの地を去っただろうか。
まさに、長渕が命を懸けた″桜島″はそれぞれの人間の可能性を再確認する旅であり、その扉を開ける日となった事だろう。
己れの可能性という導火線に火を付け、突き進んだ者にとっての10年はあっと言う間に感じる日々だったであろう!
ステージ上の長渕が叫ぶ!
「あの日の情熱はまだ心の中にあるかーー!!
まだ心の中で燃えたぎっているかーー!!」
喉が潰れるまでに力の限り長渕は叫んだ!
まもなく発表すると言う…桜島をも凌駕する10万人オールナイトライヴ! 見据える長渕の、瞳にははっきりとその姿は写し出されているのだろう。
『勝った気がしないんだ!』
『てめえら   見てろよ!』
その言葉に秘めた最強伝説が2015年、まもなく生まれようとしている。
 最後の曲、「Myself」が静かに流れる。
長渕の伝えたいこと。
それは真っ直ぐ、真っ直ぐ生きろ!と、言うこと。
誰しも哀しみを抱えて生きている。
喉がヒリヒリするほどの渇きを抱えて生きている。
だから生きる勇気が欲しい。
揺さぶられ続けた感情が人間の純粋さを取り戻す。
涙が出る。
硬質な音楽魂が本当に造る物…それは優しさだ。
2時間半のライヴは静寂に包まれたMyselfで幕を閉じた。
この唄を唄い斬った後に見せる、ぐるりとオーディエンスを見詰める長渕の厳しい顔が好きだ。
命を削り、全身全霊で挑んだ長渕が、崇高な香りを放つ瞬間である。
会場に降り注ぐ七色の光がオーディエンスの涙を金色に変えていくように思えた。
フイナーレ。
リードギター、ピーターが高らかに両手を挙げて走り上がり、満面の笑みを浮かべたジョンがハイタッチを交わす、ローレンはステップを踏んでこのライヴの役者ぶりを発揮する。Ichiro氏。昼田氏。コーラスの女性たち。
そして、彼らの手を高々と挙げる長渕。
いつまでも惜しみ無い拍手が続いた。
 吹き出す汗をぬぐいながら長渕は微笑む。
オーディエンスが力の限り突き上げた拳はスタジアムの天井を突き抜け、空からは愛と勇気が舞い降りる。
「今日、みんなで作った″命″を明日の力にかえろよ!」
長渕の声が聞こえてきたような気がした!
流した涙はきっと明日の力と変わるのではないだろうか。
長渕剛が全身全霊で伝えたこと。
それは限りない優しさ。
 人の努力に対して人は拍手を送る。
その努力は人が必ず覚えている。
いつしかそれはプライドに代わる。
今回、ニューヨークから参加している音楽プロデューサー、デニスが言った。
「こういう素晴らしいチームは素晴らしいリーダー無しでは生まれない」
それこそが長渕の努力の先に見えるプライドなのだろう。
我々に出来ること。
それはその命を削りながら闘い続けているプライドを守りきること。
 それを改めてはっきりと確信した夜だった…。